基礎技術解説濡れ・気泡・付着・表面処理
Q&A よくいただくご質問
濡れ・気泡・付着・表面処理
液滴の濡れ性
付着剥離
微小気泡
塗布乾燥欠陥
表面エネルギーと表面処
- VF変形パターンは、溶剤を含まない接着剤でも発生するのか?
- 接着剤やコーティング剤には、ある程度の水蒸気などが混在しています。それらが乾燥する際にガス化して、かなりの確率でVFパターンが発生します。溶剤系の塗料や接着剤では、塗工後からただちに発生するため、注意が必要です。
- VF変形パターンによる空隙は、接着界面においては発生した方が良いのか?
- 接着界面に空隙が発生すると、外部から水蒸気が凝縮し(毛管凝縮)、そこが腐食します。過度のVFパターンの発生は抑制する方が良いと考えられます。
- インクジェットのインクは、なぜ液滴ではなく液柱として飛翔するのか?
- 液体が急激な状態変化を起こす場合、動的粘性が支配的になります。しばらくは、ノズル孔から吐出したままの状態、すなわち液柱となって飛翔します。やがて、表面張力が支配的になるため、液柱は徐々に液滴へと変化します。サテライト液滴も、この時に生成されます。実際のインクジェット印刷では、液柱の段階で、版(プリント紙)へ被着するように設計される場合が多いです。
- 液体はなぜ球形になるのか?
- 熱力学ではエネルギーが最小になるように現象は進みます。表面のエネルギーを最小にするには、最小面積である球形が適しているため、自由に形状を変化できる液体は球となるわけです。
- 表面張力と表面エネルギーの違いは何か?
- 表面に存在するエネルギーがひび割れなどのベクトルとしての力学的仕事に使われる場合、表面張力として扱います。酸化や吸着などの化学反応としてのスカラー的に消費される場合は表面エネルギーとして扱います。基本的には表面エネルギーが根本的な要因です。
- 気体にも分散と極性成分は存在するのか?
- 気体には表面エネルギーが存在しないため、これらの成分も定義できません。気泡の解析などのため、便宜上、気体の分散及び極性成分をゼロとして取り扱います。
- お湯で洗濯をすると汚れが落ちやすい理由はなぜか?
- 極性成分の定義式の分母に、温度(T)があります。温度の上昇にともない水の表面エネルギー(張力)は低下します。これにより濡れ性が上昇し、繊維などから汚れを取り除く働きをします。洗剤などの界面活性剤と同様な働きをします。
- 分散・極性マップにおいて、付着(濡れ)エネルギーを増加させるには、それぞれの材料のポイントをどのように変化させればよいか?
- 界面を形成する表面のそれぞれの表面エネルギーを増加させて、界面エネルギーを最小にします。すなわち、それぞれのポイントを原点から遠ざけて、かつ、限りなく近づくように移動させます。理想的には2つのポイントが一致し、原点から遠いほど強い付着が実現できます。すなわち、同一の材料は、これらの条件を満たすことになります。
- 接触角の角度を用いて、表面の清浄度や汚染は評価できないのか?
- 接触角は測定データですが、物理量ではありません。接触角が低いと濡れ性が高く、概ね清浄であると言えます。また、接触角が高いと濡れ性が悪く、有機汚染などが危惧されます。表面状態の評価には、濡れエネルギーWaを用います。液滴の表面張力と接触角のみで算出できるエネルギーです。このWaであれば、清浄や汚染の指標として有効であり、2倍清浄であるなどの評価も可能です。接触角には、このような評価はできません。
- ワイピング(糸曳)現象が高いのは、前進と後退接触角の差が大きいほど顕著であるのか?
- ワイピングは表面クリーニングやスマホなどにおいて、近年、多用されるアクションです。前進と後退接触角の差が大きいほど、ワイピングは容易になり、塗料を引き延ばすことも可能になります。前進と後退接触角は、傾斜可能な接触角計かプレート稼働型の表面張力計で測定できます。
- 円モデルにおいて、拡張性を高める場合と下げる場合は、どのように設計すればよいか?
- 円モデルにおいて、円周上はS=0を示します。S<0を高めて界面への拡張性を最大にするには、円の中心に液体のポイントを設定します。S>0として液体の拡張性を下げるには、円から液体のポイントを限りなく離すことが効果的です。
- ピンニングと表面張力はどちらが優勢であるか?
- 濡れ挙動において、ピンニングは絶対的な要素です。ピンニングが生じると、濡れ性や表面エネルギーに関係する理論は適用できなくなります。よって、解析の開始前に、ピンニングの要素があるか否かを見極めることが重要です。
- Cassieの式を用いると、表面の材料の面積比率を求めることができるか?
- 2種類以上の液滴を用いてCassieの曲線を描くことで、表面を構成する材料の面積比が求められます。化学分析ではEPMAなどの高価な設備が必要ですが、接触角計だけで精度高く、面積比を求めることができます。
- Wenzelの式を用いると、材料の表面積を求めることができるか?
- 2種類以上の液滴を用いてWenzelの曲線を描くことで、その試料の表面積を求めることができます。表面積の計測には、光干渉計などの高価な設備が必要ですが、接触角計だけで精度高く、表面積を求めることができます。表面積は電極や触媒、メッキなどの様々な分野で必要となる物理量です。
- Newmanの式を用いると、滴下直後の接触角を求めることができるか?
- Newmanのグラフを作成することで、t=0の初期濡れの接触角を求めることができます。この値が接触角の真値となります。計測の便宜上、1分後の値を用いる場合がありますが、これには科学的な根拠はありません。接触角の時間変化は、液滴の蒸発や基板への浸透、基板との化学反応などが原因であり、濡れ性とは別の要因が関与しています。
- 拡張係数Sが負の値になれば、段差部であっても拡張するのか?
- 基板上の液体が拡張モード(S<0)になれば、異物や溝があっても自発的に拡張します。特に溶液が無限にあれば、限りなく拡張します。現実には、有限の溶液が乾燥を伴いながら拡張するため、拡張は自然に停止します。
- 濡れのトラブルで最も影響のある要因は何か?
- ピンニング現象です。この現象は、突起、異物、亀裂、しみなどの不連続点が基材表面にあると、そこで塗工液が捕獲(ピンニング)されてしまうことです。ピンニングが生じると、表面エネルギーといった熱平衡状態は適用できず、すべての濡れ現象を支配してしまいます。まずは、ピンニングとなる要因を除去することが必要となります。
- 濡れ性を上げるには、添加剤は効果的か?
- アルコール系の界面活性剤などを微量添加することで、塗工液の表面張力は飛躍的に低下させることができます。これによって、基材への濡れ性も改善されます。
- 液滴サイズが違っても表面張力に変化はないか?
- 液滴サイズが小さくなると、接触角は高くなり濡れ性が悪くなります。これは、液滴サイズ効果として知られています。よって、液滴を微細化するインクジェット技術やスプレー塗布技術においては、濡れトラブルに注意が必要となります。
- 付着性と密着性との違いは何か?
- 付着性(接着性)は2表面間の結合の度合いや結合性を表します。定量的な指標としては、付着エネルギーWaを用いて評価します。密着性は界面の状態を表しており、付着性とは異なる意味を持ちます。すなわち、界面に外部から液体や気体が浸入するか否かを表す指標です。これには、拡張係数Sを用います。極性の高い界面の場合、付着性と密着性とは、互いに逆の性質を示す場合があります。
- 剥離残さを生じさせない理想的な剥離角度は何度がよいか?
- 剥離角度が90度以下を選ぶと、剥離面直前の圧縮応力が緩和されて、スムーズな剥離が実現できます。45度程度の剥離角度がちょうどよいと思われます。
- 付着仕事Waを大きくするには、どのような界面設計が良いのか?
- Dupreの式から、表面エネルギーを限りなく等しくし、界面エネルギーを最小にする方向が付着エネルギーを増大できます。このような組合せは、同じ物質同士であれば容易に実現できます。異なる物質同士では、表面エネルギーの成分(分散、極性)からコントロールする必要があります。
- 接着不良の最も大きい要因は何か?
- 塗膜内に生じる応力が接着不良の要因となっている場合が多くみられます。よって、膜内歪みを計測して、応力緩和の対策をとることが有効です。
- 接着不良の要因を解析するには、どの手段が有効か?
- まず、破断面を観察し、剥離後の残さ等の状況を観察することが有効です。これにより、界面剥離、凝集剥離、混合剥離の区別が可能となり、剥離が生じた直接の要因を見極めることができます。
- テープ剥離において影響する要因は何か?
- テープの剥離角度に大きく影響を受けます。通常は、90度および180度で剥離試験を行います。また、剥離速度も剥離力に影響してきます。
- 大気中と水中との付着力は同じなのか?
- 表面エネルギーに支配される場合、大気中の付着力が高い場合は、水中の付着力は弱くなります。この理由は、付着界面に水が浸入しやすいためです。このように、付着力と密着力は逆の特性を示す場合があります。
- WBL(weak boundary layer)と何か?
- これは固体表面の弱結合層のことであり、基板表面の汚染やAl基板表面の酸化膜層が相当します。この層の凝集性は低いため、ここで接着不良が生じやすくなります。良好な接着を実現するには、このWBLを除去する必要があります。
- 接着界面を分離するとボイドが多数生じている。この原因は何か?
- これはVF(viscos finger)変形と称して、粘性指状変形として知られている現象です。ギャップ内に急速にガスが発生した場合、このような微小ボイドが多数発生します。接着剤のコート後にも発生するため、注意が必要です。時間をかけて乾燥させることでVF変形を防止できます。
- ジェットノズルにおいて、気泡が発生する理由は何か?
- ジェットノズル部において、ノズル管の内径が急激に大きくなります。それと同時に、液体内圧力が急激に低下し、液体内の溶存気体が急激にガス化し、微小気泡となって発生します。これにより、液滴の細分化が生じ、ミストとなってスプレー状の拡散噴射が生じます。気泡の発生は、ジェットノズルにおいて重要な役割を果たします。
- 塗工液に微小気泡が含まれている。どのようにして除去すればよいか?
- 減圧容器に入れて、短時間で気泡を除去する方法があります。また、フィルターを用いて微小気泡を除去する方法も効果的です。
- 基材上での塗工液に気泡が混入している。これは除去する方法はあるか?
- 熱処理による乾燥工程では、気泡は膜内対流に伴って消滅します。しかし、気泡痕を残さないように、乾燥プロセスを制御する必要があります。
- ナノペーストによるコーティングにおいて、発生する欠陥は何か?
- ナノペーストによるインクジェットコーティングは、低温で自在に配線が描画できるため、有効な配線技術として注目されました。しかし、結晶粒成長の不均一や、クラック欠陥、配線剥離などが生じやすく、信頼性加速試験でも、他のコーティング方法に比べて劣る場合が多い現状です。よって、点欠陥の影響を受けにくい大面積の電池電極や触媒用電極、およびデコレーション用のコーティング法として多く実用化されています。
- 耐熱性の低い基材の場合、乾燥炉内での過熱を防ぐにはどうすればよいか?
- 乾燥曲線によれば、乾燥初期では温度上昇は限定されて定率乾燥期間へ移行します。最初から、高温に温度上昇するわけではありません。よって、耐熱性の低い製品の場合は、定率乾燥期間の温度をモニターすれば、概ね、温度管理が可能です。ただし、乾燥末期では基材の温度が上昇してきます。
- 太陽光には紫外線も含まれている。塗膜の乾燥において、紫外線はどのように影響するのか?また、それを防ぐにはどのような方法があるか?
- 紫外線用フィルタを再表面に添付する方法や、紫外線を吸収する色素を混合させることにより、紫外線劣化を遅らせます。高分子材料の場合は、10年ほどで、退色やクラックなどの劣化が生じます。
- 減圧乾燥においては、残留溶剤量が多いほど応力発生などの不安定性が増すということか?
- 在留溶剤が存在する方が、酸やアルカリ溶液の浸透が加速するという見解です。高分子樹脂内には、他にナノ空間なども存在し、浸透モデルとしては複雑になりますが、十分な乾燥を行った方が塗膜の安定性は向上するといえます。
- 超臨界流体とはどのような状態を意味するのか?
- 液体でも気体でもない状態であり、液体特有の表面張力が存在しません。よって、ラプラス力も作用しないため、微小構造の破壊を回避できます。
- マランゴニー対流による乾燥むらを解決する、あるいは低減する方法は何か?
- 乾燥むらは塗膜の乾燥過程において、必然的に発生します。よって、トラブルなどの異常事態ではありません。抜本的な解決は溶剤の対流が生じる前に、塗膜の乾燥を完了させることが効果的です。これにはスピンコートによるスピン乾燥が最適です。しかし、大型基板などの場合は遠心力のためスピン回転ができません。この場合は、拡張係数Sを負(S<0)にして、自ら拡張する手法が効果的です。
- 環境応力亀裂は、どのような場所で生じているのか?
- 屋根のコーティング膜や公園のペンキ塗装などの屋外での塗膜によく見られます。酸性雨などの暴露により、環境応力亀裂が発生し、そこから内部へ水が浸透することで錆や腐食が発生します。
- 乾燥時にフィルムが撓んだり変形したりする。応力と思われるが、どのように測定すればよいか?
- 溶剤蒸発に伴う膜厚減少と屈折率変化によって、塗工膜の光干渉特性が変化してきます。これによって、光干渉縞が変動して観察されます。乾燥が完了すると干渉縞の移動は見えなくなります。
- 乾燥時に塗工膜に光干渉縞が見えることがある。これは膜の性質変化が表れているのか?
- 短冊型などの基本形状にサンプルを成形し、乾燥歪みを測定することで応力を求めることができます。特に、温度上昇及び下降時の歪みを計測することで残留歪みが求められます。
- ブリスター(膨れ)はどのようにして生じるか?
- 塗工膜内の溶剤をホットプレート等を用いて急速に乾燥させる場合、膜中に溶剤ガスが発生し基板界面に集中することで、ブリスターが生じます。乾燥時間を遅くすることでブリスターの発生は抑制できます。
- シランカップリング処理は、密着強化剤とも呼ばれているが、付着力は向上するのか?
- シランカップリング処理において、密着性と付着性は互いに逆の性質を生み出します。シランカップリング処理により、界面への液体の浸透は阻止できることで密着性が改善します。しかし、界面の付着性は低減します。
- ガラス基板などの濡れ性試験をする場合、表面の汚れは除去した方がよいか?
- 正常なガラス表面では、水滴の接触角は10度以下となり、よく濡れています。しかし、大気中で保存していたガラス表面は、水の接触角が60度程度となり、次第に濡れ性が悪くなってきます。通常、ガラス表面では炭化水素系の有機汚染が生じているため、洗浄液や酸素プラズマ等で十分に清浄化することが必要です。
- 水中の付着力を改善する効果的な手法はあるか?
- シランカップリング処理が有効です。これにより、基板表面が疎水化されるため、水中での剥離は大きく改善されます。ただし、大気中での接着力は低下していることにも注意が必要になります。