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基礎技術解説濡れ・気泡・付着・表面処理

シランカップリング処理と密着性及び付着性

シランカップリング処理は、一般に、基板の表面エネルギーの極性成分を低下させる。このため、基板上に付着した薄膜や微粒子などの溶液中での密着性を改善できる。これは、拡張係数Sによる円モデルで説明できる。下の左図は、HMDS処理を行ったシリコン基板の表面エネルギー成分図を示している。25秒までの短い処理であるが、HMDS処理に伴ってシリコン基板の極性成分が減少する。そして、コーティング材料である樹脂(レジスト)の成分値へ近づいていく。下の右図は拡張係数Sに基づく円モデル表示をしている。HMDS処理により、基板とレジストとの成分値を直径とする円が縮小していく様子が分かる。これにより、純水の成分値は円から離れており、HMDS処理したシリコン基板とレジスト膜との界面へは、純水が浸透しなくなることが分かる。

HMDS処理による表面エネルギー成分の変化
HMDS処理による表面エネルギー成分の変化
円モデル
円モデル

下の左表よび右図1には、拡張係数Sの値を示している。比較のために付着仕事Waも示している。HMDS処理時間の増加に伴い、拡張係数Sは正の値で増加することが分かる。すなわち、シランカップリング処理することで、界面への水の浸入を防止できる(密着性)ため、塗膜の耐久性に大きく効果がある。

カップリング処理時間とエネルギー変化
カップリング処理時間とエネルギー変化
HMDS処理による拡張係数と接着仕事の変化
図1 HMDS処理による拡張係数と接着仕事の変化

下の左図は微細高分子パターンの剥離状況の電子顕微鏡写真を示している。これは、パターン現像時のリンス中に基板界面への純水の浸透によって生じた剥離不良である。この基板にHMDS処理を行うと、このようなパターン剥離が改善されて、密着性が向上することとなる。

レジストパターン剥離
レジストパターン剥離
原子間力顕微鏡(AFM)を用いたレジストパターンの付着力解析
原子間力顕微鏡(AFM)を用いた
レジストパターンの付着力解析

このように、シランカップリング処理による表面エネルギーの低下に伴い、基板とコーティング膜との密着力は改善する。しかし、コーティング膜と基板の界面付着力は低下することとなる。ここで、密着力と付着力との定義の違いに触れておく。一般的に、密着力は溶液などの界面浸入を防ぐシーリング能力である。付着力は界面を形成する2表面間の引き合う力である。図1に示したように、シランカップリング処理では、液体中での固体間の密着性(拡張係数S)は改善されるが、基板上の固体の付着力(付着仕事Waは低下させる。逆に、酸素プラズマ処理のように、固体と基板との物理的な付着力は高くするが、溶液に対する界面の密着性は低くなる場合もある。ここでは、上の右図に、原子間力顕微鏡(AFM)を用いた微細レジストパターンの付着力の測定方法を示している。AFMを用いることで、このような微細パターンの剥離力(N)を定量化することができる。下の左図には、実際にAFMの探針を用いて、直接剥離させたレジストパターン像を示している。この場合のHMDS処理時間は10秒から25秒間である。微小なレジストパターンが慎重に剥離されている様子が確認できる。そして、下の右図は、HMDS処理時間とレジストパターンの付着力との関係を示している。HMDS処理時間の増加に伴い、パターンの付着力は低下することが分かる。このように、大気中でのレジストパターンと基板間の付着力は、HMDS処理によって弱められることが実験的に確認できる。シランカップリング処理剤としてHMDSに注目し、密着および付着特性などを概説した。特に、実際の半導体LSI、液晶パネルおよび太陽電池パネル製造工場で適用されている装置およびプロセスに注目した。シランカップリング処理により、基板の表面エネルギーの極性成分が低下し、密着性は向上する。しかし、コーティング膜と基板との接着力は低下する。ここでは、コーティング膜の安定性コントロールにおいて、シランカップリング処理の有効性を示した。

HMDS処理前後の微細レジストパターンの剥離実験
HMDS処理前後の微細レジストパターンの剥離実験
HMDS処理時間とレジストパターンの付着力との関係
HMDS処理時間とレジストパターンの付着力との関係

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