固体表面の濡れ性制御は、疎水化処理と親水化処理に主に分けられる。疎水化処理として、シランカップリング処理やフッ素プラズマ処理が代表的であり、親水化処理は酸素プラズマ処理が有効である。一般に、表面エネルギーの分散および極性成分解析によって、物質の表面特性を表せる。また、液中での濡れ付着解析には拡張係数が有効である。ここでは、コーティング性に大きく関わるシランカップリング処理について述べる。シランカップリング処理は、基板表面の極性成分を低下させる作用がある。すなわち、基板表面に存在するOH基などの親水基を疎水基(親油基)に置換する。特に、コーティング膜の液中での安定性にシランカップリング処理は有効である。また、シランカップリング処理は真空系を必要としないため、設備は比較的簡略であり、汎用性の高い表面改質処理として位置付けられる。シランカップリング処理後の表面安定性も高く、実用的なプロセスとして、微粒子の分散、微細パターンの付着性、およびウェットプロセスでの浸透制御に用いられる。ここでは、シランカップリング剤として、半導体LSIプロセスや液晶パネルおよび太陽電池パネル作製に実績を有するヘキサメチルジシラザン(HMDS:hexamethyldisilazane、C6H19NSi2)を主体に解説する。
HMDSは無色透明で無害の液体であり、少し刺激性の臭気があるが取り扱いは比較的容易である。しかし、水分との反応性は高く、保存には注意を要する。化学的性質は上の左表に示すとおりである。プロセス上重要となる沸点は126℃である。HMDSのシランカップリング反応は、上の右図のように、シリコン酸化膜表面の親水基であるOH基を、疎水基である3CH3-SiO基へ置換する働きである。通常は、カップリング反応を促進させるため、HMDSを蒸気あるいはガス状にして基板上に供給する。HMDSを液体のままで高分子膜に散布するとゲル化反応を生じ、基材を損傷させる恐れがある。また、上の右図のように、シランカップリング反応過程においてアンモニアが発生する。アンモニアは、人体に有害だけでなく装置腐食を引き起こすため、排ガス処理を十分に行う必要がある。また、水分の影響を強く受けるため、処理プロセス中の湿度管理が重要となる。これらは、処理装置の構成において大きく影響する。このように、固体表面の疎水性および親水性の評価には、液体の濡れ性を表す接触角法が有効である。また、表面処理を定量評価するためには、表面エネルギーγ(mJ/m2) が適している。
上図は、シランカップリング処理による接触角の変化を示している。純水の接触角はシリコン酸化膜などの親水性表面では低くなるが、シランカップリング処理による疎水化によって高くなることが分かる。また、シランカップリング処理を行った表面の化学結合状態を調べるには、FT-IRやESCAなどの化学分析手法が有効である。下図は、FT-IR-ATR法で測定したシリコン酸化膜表面の解析結果を示している。シランカップリング処理に基づく疎水基に起因したピークが得られている。シランカップリング処理した試料の保存は、乾燥窒素および乾燥空気中の密閉容器、あるいは減圧チャンバー内が好ましい。これらの保存条件であれば、半日程度は表面特性を維持できる。1日以上経過すると徐々に親水性へ劣化していくので注意が必要である。
参考文献