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基礎技術解説濡れ・気泡・付着・表面処理

環境応力亀裂の発生メカニズム

一般的に、スピンコート法はその均一性, プロセス, 装置の簡易さにより多くの産業で用いられている。膜厚均一性を向上させるにはスピン回転数の上昇が効果的であるが, そのためウェハ周辺部の周速度は速くなり、レジスト膜からの溶剤蒸発の不均一性を引き起こす。レジスト膜をアルカリ現像液へ浸した場合に, 未露光部のレジスト表面に微細なひび割れが生じる。この現象はウェハの大口径化に伴い顕著になる。また, この現象は、応力歪みを有した高分子膜に溶液が触れる際にクラックが発生する環境応力亀裂 (Environmental Stress Cracking) である。ここではレジスト膜中に発生した微細亀裂の発生機構を、レジスト膜中の残留溶剤量に注目して解析する。使用したレジスト成分は、ノボラック樹(m-クレゾール, p-クレゾール), 感光剤 (ナフトキノンジアジド), 溶剤 (エチルセルソルブアセテート) の混合物である。下図はウェハ内での代表的なレジスト亀裂分布を示している。この図は肉眼によるスケッチであるが、TMAH水溶液中に浸漬させて約5秒程度で発生する。光干渉効果により亀裂部のみが変色して見えるため、肉眼で確認することが出来る。ウェハの中心部では亀裂はほとんど発生せず、ウェハ周辺部に多く発生することがわかる。また亀裂はウェハ中心に対して同心円状に発生し、その長さも周辺部ほど長いことがわかる。これらより、レジスト膜内の応力分布が影響していることが分かる。

レジスト膜表面に形成された環境応力亀裂(6インチサイズウェハ)
レジスト膜表面に形成された環境応力亀裂(6インチサイズウェハ)

下の左図は表面粗さ計で測定した亀裂部の断面形状を示している。亀裂の幅は約100μmであり, 最大深さは約60nmである。レジスト膜の表面粗さは数nmである事からも、亀裂はかなり深いことがわかる。環境応力亀裂のモードにはクラックおよびクレイズがあるが、この亀裂は完全な膜分離に至っていないためクレイズであるといえる。すなわち, この亀裂の発生原因はレジスト膜表面が収縮したことによる凝集破壊である。また、亀裂部のレジスト膜は正常部より薄くなるため, 後工程のドライエッチング中にレジストの膜減りが生じ加工精度に影響を与える。下の右図はTMAH水溶液中でレジスト膜に発生した環境応力亀裂の発生機構を示している。(a)のように、TMAH水溶液中のレジスト膜表面にはクロスリンク(架橋)が生じ、 残留溶剤量の多いウェハ中央部では膜収縮が顕著に起こる。その結果、(b)のように強い引張り応力が, ウェハ周辺部のレジスト膜表面に生じる。ウェハ周辺部の表面クロスリンク層は薄いと予想されるため, レジスト膜表面のみの凝集破壊が起こり亀裂発生に至る。よってレジスト膜内の残留溶剤量のコントロールは, 亀裂発生を防止する上で重要な要素となる。

亀裂部の断面プロファイル
亀裂部の断面プロファイル
レジスト膜表面の環境応力亀裂の発生モデル
レジスト膜表面の環境応力亀裂の発生モデル

参考文献

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