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基礎技術解説濡れ・気泡・付着・表面処理

接着層のピンホール(VF(viscos finger)変形)

接着剤で接着された界面を、そのままの状態で見ることは容易ではない。はたして、その界面はどのようになっているのか?通常のコーティングは基板や基材表面に行うが、接着剤のように2枚の基板で挟まれたり、狭ギャップ間に塗膜を形成する場合も多い。その際、接着層や塗膜に含まれる溶剤の蒸発コントロールは、固体の乾燥を扱う上で重要となる。一般に、高分子膜などの凝集性の低い固体中にガスが急速に発生した場合、Viscous Finger(VF)変形として知られるフラクタル的な粘性指状の変形が生じる。これは発生したガスによって, 高分子膜自体に粘性変形が生じ、多数のピンホールを形成することである。このガスは高分子膜の溶剤、および熱分解による反応生成物である場合が多い。このガスの圧力は非常に高く、固体の凝集性を超える場合が多い。

狭ギャップ構造内の高分子膜
狭ギャップ構造内の高分子膜
狭ギャップ間に生じた高分子膜のVF変形パターン
図1 狭ギャップ間に生じた高分子膜のVF変形パターン
VFパターンの2次元成長モデル
VFパターンの2次元成長モデル

ここでは、接着層を剥離して、VF変形の状態を観察しよう。上の左図のように、ガラス基板上に, 溶剤系高分子膜をスピンコート法で膜厚10μmに形成し、他のスライドガラスで挟んで試料とする。高分子膜の主成分であるノボラック樹脂の熱軟化温度は約150℃であり、溶剤のエチルセルソルブアセテートの沸点は156℃である。次いで、これらの試料をホットプレートにより熱処理を行う。そして、剥離試験機を用いて界面を破壊し、剥離表面を観察する。剥離面には、上の右図のように熱処理により生じた円形のVF変形が多く観察できる。これは、高分子膜内の溶剤の蒸発に伴う局所的な圧力増加に起因し、付着面積の減少となり付着性は低下する。このような溶剤蒸発に伴うVF変形は、右図のように、Saffmanのモデルで解析できる。一般に, 流体の変形はナビエ・ストークス方程式に基づいて解析し、その時のギャップ間の流体内の圧力Pは、ラプラス場(∇2P=0)として表される。そして、流体内でのVFパターンの成長速度νは下式で表される。

式

ここで、 bはギャップ間隔、ηは流体の粘性係数を表す。ここで、急速な熱処理は高分子膜内での圧力勾配∇Pの増大を意味するため、成長速度νは大きくなりVFパターンの成長が顕著になる。一方、熱処理温度の上昇により、熱重合に伴う高分子膜の粘性係数ηの増加が考えられる。そして, 成長速度νは減少しVFパターンの成長が遅くなる。しかし, 実際には熱処理により高分子膜の凝集性が増加し、局所的な応力分布が生じると考えられる。よって、高分子膜内の応力分布とVF変形との相関の検討も必要である。ここで定量的にVF変形を解析しよう。VF変形モデルにより、VF変形の曲率半径ρとギャップ間隔bの比は下式となる。

ρ / b = ( Ca)-1/2

ここで、Caはキャピラリー数と呼ばれ、ギャップ間の流体の運動の特徴を表す無次元の値である。

Ca = η /νγ

ここで, γは粘性液体と基板間の界面エネルギーである。図1の観察結果から, ρ≒0.1mmでb=10μmであるため Ca≒0.01となる。ここで、Ca=0.3以下である場合は、流体の流れは粘性的であると考えられる。(0.3以上であれば, 透過性であると考えられる。) また、η=60cp, γ=40mJ/m2が得られ、 Ca=0.01とするとVF変形の成長速度vは約6.7×10-4m/sになる。VF変形現象を解析することで、界面での粘弾性を定量化できる。このように、固体内に生じる気体の制御は、乾燥技術において重要である。最近では、X線CTなどの非破壊検査技術が発達し、固体内部の構造をサブミクロンの分解能で解析できるようになった。これまで、未知とされていた現象も詳細に解析できるため期待が大きい。

参考文献

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