基礎技術解説コーティング
Q&A よくいただくご質問
コーティング
塗布・乾燥プロセス
微粒子制御
塗膜の性質
- 塗工液の濡れ性において、粘性と表面張力との違いは何か?
- 粘性は平衡状態に至るまでの時間依存性の存在を意味しています。表面張力には、動的および静的表面張力がありますが、平衡状態に至った濡れ性は静的表面張力で表されます。濡れ性は表面張力が支配します。よって、粘性が異なっても、表面張力が同じであれば、最終的な濡れ挙動は同じになります。ただし、実際の乾燥プロセスでは、平衡状態に至る前に乾燥が完了します。濡れ性と乾燥時間との最適化が必要です。
- 溶剤系の塗工膜のシール性は低いのか?
- 溶剤系の塗工膜に限らず、有機塗膜には、ナノスケールの空孔が存在します。ここを水蒸気やガスが透過します。これにより、基材に錆や腐食が生じる原因にもなります。ただ、この空孔構造により、膜の応力低減による安定性の向上に効果があります。最近では、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系のバリア性の高いフィルムも開発されていますが、完全なシール性には限界があります。
- ロールコーターのメリットは何か?
- 設備的に簡単で、処理能力や生産コスト的にも群を抜いています。古くから歴史もあり、種々の装置も提供されています。高精細および高精度なコーティングでなければ、最適なコーティング方法であるといえます。ただし、膜厚コントロールや欠陥抑制には限界があり、グラビアコーティングやダイコーティング等の高精度な手法を用いる必要があります。
- ダイコーティングでは、なぜ膜厚の均一性が高いのか?
- ダイコーティングの塗膜の膜厚を表す式は、ポンプ流量と基材移動速度、ダイ吐出幅のみに依存しています。基材移動速度とダイ吐出幅の掛け算は、塗工液が展開される面積に相当します。ダイとバックアップロールとの間隔には無関係であるため、振動等により感覚が変動しても、コーティング膜厚には影響しません
- マイクログラビア内のインクの転写後は、点在したインクはどのようになるのか?
- 規則的に配列した各インクが、時間経過とともに広がり隣接するインクと合一して、大面積の均一なコーティング膜が形成されます。グラビア内のインクの容積は同一であるため、膜厚の均一なコーティング膜が得られます
- ヘリウムガス雰囲気では、なぜ塗布むらが生じないのか?
- ヘリウムガスの粘性は、空気よりも低下します。よって、スピンコーティング時の乱流が生じにくく、塗布むらの原因となる不均一乾燥も生じにくいことが期待できます。大型基板や角型マスクの周辺部での塗布むら解決に有効です。しかし、ヘリウムガスは高価であるため、回収機構を備えることも必要になります。
- 塗膜の凝集性を高めるための理想的な熱処理プロセスとは?
- 乾燥過程におけるラプラス力を十分に作用させるためには、乾燥時間を長くすることが効果的です。理想的には数日間かけて低温乾燥などが適しています。昔の天日干しなどは理想的な乾燥方法といえます。短時間で処理するのであれば、低温ベーク+高温ベークといった段階ベークが効果的です。ホットプレートを用いた瞬間昇温は、塗膜の凝集性の面からは不利であると言えます
- 乾燥炉の熱容量は、どのようなケースで検討する必要があるのか?
- 連続で大量の製品を乾燥する場合、乾燥炉の熱容量が低いと、炉内温度が徐々に低下し十分な熱量を供給できなくなります。そのため、処理能力に応じた処理シーケンスを検討する必要があります。
- スムーズに塗工液が濡れない場合、どのような手順で対策をすればよいか?
- 最初に濡れていない箇所を、目視および拡大鏡(顕微鏡)などを用いて十分に観察してください。最初に、ピンニングなどの濡れ性を阻害する要因を確認することが必要です。次いで、基材表面の汚染状態、塗工液の表面張力の調整へと対応していきます。
- 塗工液が濡れない濡れ不良(ピンホール)が生じた場合、どのように対処すればよいか?
- まず、ピンホールの原因となる異物や亀裂を除去する必要があります。さらには、ピンホールは必要な段差形状でも生じるため、本質的な濡れを改善することが必要となります。これには、拡張濡れが生じる表面状態に設定することが効果的です。
- 乾燥中の製品の温度は、どうやって測定すればよいか?
- 乾燥炉の表示温度は、過熱防止を目的としてヒーター近傍に設置されていることが多く、製品の温度と異なる場合が少なくありません。可能であれば、熱電対を使用して製品の温度をモニターすることが必要となります。赤外線放射温度計を用いて、炉外から計測することも有効です。
- 乾燥炉の中の温度は、位置によって変動しているのか?
- ヒーター近傍では高温となり、搬送口や排気口付近は比較的低温になりやすい傾向があります。炉内の気流を対流させる機構があれば、温度分布はかなり改善されます。ただ、対流のうずが生じると、場所によっては過熱する危険性があるので注意が必要です。
- 耐熱性の低い製品を乾燥させる場合、乾燥温度はどのように設定すればよいか?
- 乾燥初期には製品温度が上昇するが、乾燥が始まると温度上昇は無くなり、定率乾燥期間が始まります。しかし、乾燥の終了時には製品温度が上昇し始めます。基本特性としての乾燥曲線を取得しておく必要があります。
- 乾燥時に塗工膜表面から煙が舞い上がっているように見える。これは溶剤の蒸発なのか?
- 溶剤ミストに室内光が散乱して白く見えているのが原因です。乾燥炉の排気速度を高くして、高濃度の溶剤ガス雰囲気にしないことが安全上で必要です。
- 液滴内を微粒子が対流する場合、基板に付着しないのはなぜか?
- この場合、微粒子と基板間の拡張係数Sは負(S<0)となっている場合が多く、微粒子と基板間には常に液体が浸入しています。また、ゼータ電位により、微粒子と基板が同極に帯電している場合は、反発力により吸着することはありません。この場合は、溶液のpHを変化させるとゼータ電位の符号が変化するため検証することができます。
- アスベストはなぜ浮遊するのか?
- サイズの縮小に伴い、体積に対して表面積の割合が大きいのは針状結晶です。よって、針状結晶は重力(体積要因)よりも気流や帯電(表面要因)によって容易に浮遊します。
- クラウジウス・モソティの式によれば、屈折率の高い物質は、その密度も高いと考えて良いか?
- 物質の屈折率と密度(分子量など)は正の相関を有しています。よって、高分子樹脂を熱処理すると屈折率は増加し、その密度も上昇しています。溶液が浸透すると膨潤が生じ、屈折率は低下します。屈折率はエリプソメータや光干渉計などで容易に計測できます
- 塗膜の応力において、内部歪みが発生するのは、どのようなケースが考えられるか?
- 塗膜の乾燥による溶剤蒸発や、熱処理による熱架橋、溶液浸透による膨潤や膨張などの体積変化を伴う場合、内部応力変化が塗膜に生じます。これらは外力とは逆方向の変位を伴った応力を発生します。
- 多層膜における内部歪みを吸収するには、どのような手法が効果的なのか?
- 樹脂の軟化点や粘性増加、フィラーの添加などにより界面での応力歪みを吸収する方策を用いることで、クラックや割れなどを防止することが可能になります。これらは応力シミュレーションなどの併用により、さらに効果的になります。
- 応力集中が生じると、塗膜にはどのような変化が生じるのか?
- 応力が集中すると、塗膜内に歪みが蓄積されて、クラックや変形といった不具合が生じます。また、溶液の浸透や退色などの変化も加速されます。応力集中は形状デザイン等で回避することが可能です。