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基礎技術解説コーティング

塗膜の表面には極薄い硬化層ができている

通常、塗工膜のコーティング後には熱処理を行うが、その膜の均一性はどうであろうか?これは、塗工膜内の残留溶剤の蒸発促進、塗膜の凝集性の向上、および基板との付着性の改善などが目的である。そして、熱処理後の塗膜には、表面硬化層が形成される。この表面硬化層の膜厚は20nm程度であり、原子間力顕微鏡(AFM: atomic force microscope)による微細探針のインデンテーション(押込み試験)解析によって検出できる。ここでは、スピンコート法で作製した高分子膜の硬さの深さ方向分布について述べる。特に、AFMを用いた高分子膜の表面硬化層の検出、およびその解析手法について述べる。

原子間力顕微鏡(AFM)の微細探針
原子間力顕微鏡(AFM)の微細探針

右図は、インデンテーション試験に使用される微細カンチレバー探針の先端写真を示している。先端の曲率半径は8nm、ばね定数は97N/mであり、高分子膜内へシャープな先端を押し込むことができる。下図はAFMの微細探針を用いたインデンテーション法の概略を説明している。最初に、高分子パターンの表面像をナノスケールで観察し、AFM探針をインデントする位置を決定する。その後、探針を高分子膜内へ荷重をかけて押し込みながら荷重曲線を取得する。

AFMによるレジストパターンへのインデンテーション試験
AFMによるレジストパターンへのインデンテーション試験

インデンテーション試験は、(a)高分子パターン上面、(b)パターン側面、および、(c)パターン内部での試験が可能となる。パターン内部のインデンテーション試験では、あらかじめパターン表層部をAFM探針で除去し、パターン内部を露出させる。そして、露出させた高分子膜表面にAFM探針をインデントする。このような細かい操作もAFMを用いることにより可能となる。インデンテーション試験のサンプルは、アクリル系樹脂を主成分としたArF化学増幅型レジストを用いている。

インデンテーション試験後のレジストパターン表面の痕跡
インデンテーション試験後のレジストパターン表面の痕跡
レジストパターン表面での荷重曲線(各曲線の番号はインデント位置を示す)
レジストパターン表面での荷重曲線
(各曲線の番号はインデント位置を示す)

上図は、インデンテーション試験後の線幅500nmの高分子パターン像である。インデンテーションの痕跡が明確に確認できる。ここでは、隣接するインデント試験同士が影響しないように、インデント位置を徐々にずらしている。よって、高分子パターンの横断面内の硬さ分布を解析できる。また、パターンエッジ付近では、AFM探針をインデントすることにより、パターン側面が崩れている。パターンエッジ部では、インデンテーション試験に誤差が含まれる。右図は、各インデント位置での荷重曲線を示している。パターンエッジ付近では、比較的低い荷重で探針がインデントされている。これは、パターンエッジ部での破壊に起因する。パターン中央付近では、良好な荷重曲線が得られており、パターンエッジ部の影響は無い。荷重曲線には、パターン表面で傾きが大きく、内部に進むにつれて低くなっている。これは、高分子膜表面の硬化層の存在を示しており、その膜厚は約20nmである。さらにAFM探針をインデントして基板近くでは、探針を押し込めなくなる。基板近傍でも硬化層が存在しており、これはホットプレートによる基板からの熱伝達に起因した硬化である。下の左図は、高分子パターン上面、側面、内部でのインデンテーション試験による荷重曲線の傾きを示している。荷重曲線の傾き(N/m)は、その深さ位置での押込み硬さを表す。高分子パターン上面には、内部に比べ大きい硬化層が存在する。パターン側面にも僅かな硬化層が形成されている。このように、同一の高分子パターン内でも凝集性に違いがあることが分かる。よって、下の右図にパターン断面における硬化層モデルを示している。パターンを覆うように表面硬化層が形成されている様子が分かり、乾燥プロセスに大きく起因している。また、高分子パターン側面の凝集性は、エッジラフネスとしてパターン寸法精度に直接影響する。以上のように、AFMを用いたインデンテーション試験によって、微細構造内の凝集性を定量的に得ることができる。

レジストパターンの各位置における硬さ分布
レジストパターンの各位置における硬さ分布
レジストパターン断面での硬化層モデル
レジストパターン断面での硬化層モデル

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