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基礎技術解説分析・評価・解析

AFMによる微細加工パターンの付着性解析(2)

原子間力顕微鏡(AFM: Atomic force microscope)を用いて、サブミクロンサイズのフォトレジストパターンの接着および凝集性解析を試み、この手法の妥当性を議論する。フォトレジストパターンとして、平坦基板上の高さ1.01μm、幅0.60μmのドット形状のものを一個選択し、微細探針から直接荷重を掛けながら走査することで倒壊させる。そして、倒壊に要した荷重、および倒壊直前のパターン歪みを測定する。このパターン歪み測定と有限要素法による応力変形解析との組み合わせにより、界面剥離を引き起こす要因となった内部応力およびパターンのヤング率を算出する。これらの値は、フォトレジストパターンの熱処理温度の増加に伴って大きくなることが分かった。この傾向は、フォトレジスト膜の熱重量(TG)と硬度および屈折率などの熱処理温度依存性と密接な相関を示しており、本手法の妥当性を確認した。本手法は、フォトレジストパターンなどの微細構造体の接着および凝集特性を直接解析する上で有効である。

リソグラフィ技術のエッチング用マスクとして用いられるフォトレジストの微細パターンのように、基板上に形成された微細な高分子凝集体の接着力改善が重要な課題となりつつある。特に、半導体集積回路および液晶表示素子などに代表される電子デバイスでは、集積化が促進されることによりデバイス作製時の加工寸法もサブミクロンに達している。このような微細な寸法になると、ウエット処理時にフォトレジストパターン間に働くラプラス力の影響が大きくなり、パターン剥離などの問題が生じてくる。また、今後はKrFおよびArFエキシマーレーザーを光源とする光リソグラフィ技術の進歩により、0.1μm線幅クラスのフォトレジストパターンの接着安定性が要求されている。特に、21世紀には0.1μm以下の線幅のフォトレジストパターンが実用化されると考えられている。しかし、現在では、ミクロンスケールの構造物の接着、凝集および破壊特性などを直接解析する手法は少なく、バルク的な固体の物性値を用いて解析が行われている。しかし、1986年にBinnigらにより原子間力顕微鏡(AFM:Atomic force microscopy)が開発されて以来、表面科学における解析精度は大幅に改善されてきた。また、近年では、解析対象は分子および原子スケールにまで至るとともに、それらの加工技術の確立、新材料および新技術の出現が期待されている。

レジストパターンの作製には、365nmの紫外線(i線)に感度を有するポジ型フォトレジストを使用した。このフォトレジストは、ノボラック樹脂、感光剤、溶剤の3成分から成っている。ノボラック樹脂の熱軟化温度は約150℃である。感光剤はナフトキノンジアジドであり、分解温度は135℃である。溶剤はエチルセルソルブアセテートであり、沸点は156℃である。フォトレジスト膜は、スピンコート法により1.01μmの膜厚でSi(100)単結晶基板上に形成した。その際、シランカップリング処理などの密着強化処理は施していない。その後、紫外線露光装置(日本光学工業(株)、NSR1505-i3)を用いて、一辺0.60μmの正方形マスクパターンをフォトレジスト膜中に転写した。そして、フォトレジスト膜をTMAH(tetramethyl-ammoniumhydroxide)2.38% 水溶液中に浸し、露光部の溶解除去を行った。引き続き、イオン交換水中に3分浸漬しリンス処理を行った。試料の乾燥後に遠紫外光(波長0.3μm以下)を照射し、フォトレジストパターンの表面層の硬化処理を行った。これにより、続いて行う熱処理時に生じるパターン変形を防ぐことが出来る。熱処理は150~300℃までの各温度でホットプレートを用いて5分間行い、フォトレジストパターン全体を硬化させた。

フォトレジストパターンの歪み測定には、AFMの探針と試料表面が常に接触するコンタクトモードを使用した。使用したカンチレバーの材質はSi3N4膜であり、長さは200μm、厚さは20μmのものを用いた。その先端には、長さ20μmで先端曲率半径が25nmのピラミダル型の微細探針がマウントされている。探針の先端角は69°である。使用したカンチレバー、探針および探針先端の電子顕微鏡(SEM)写真を下の左図(a)~(c)にそれぞれ示す。フォトレジストパターンの歪み測定は、下の右図(a)~(b)に示すような測定フローにより行う。(a):低荷重(0.01nN)において変形前のフォトレジストパターン像を測定する。この時、パターン変形は殆ど生じていない。(b):探針に荷重をかけながら基板を横方向に移動させることにより、フォトレジストパターンを変形させる。この時、探針から加える荷重は常に一定値になるようにフィードバック制御されている。フォトレジストパターンが倒壊する直前の歪みSを、測定したパターンプロファイルから求める。(c):再び低荷重を掛けながら試料表面像を測定し、フォトレジストパターンの倒壊および剥離を確認する。

パターン剥離に使用したカンチレバー探針
パターン剥離に使用したカンチレバー探針
レジストパターンの剥離法(DPAT法)
レジストパターンの剥離法(DPAT法)

測定したフォトレジストパターンの歪みとカンチレバーにより加えた荷重に基づき、有限要素法を用いてフォトレジストパターンの内部応力分布およびヤング率を各熱処理温度に対して算出した。この時、有限要素解析の分割数は120個、フォトレジストのポアソン比は0.33とした。また、フォトレジストパターンと基板との界面は、固定点として扱った。そして、実験により測定したフォトレジストパターンの歪みと変形解析による歪みが一致する様にヤング率の値を変えて計算した。そして、最終的にフォトレジストパターンの内部応力分布および変形像を決定した。

熱処理に伴うフォトレジスト材料の熱重量、硬度および屈折率を測定した。熱重量は、セイコー電子工業(株)製の熱重量測定装置を用いた。フォトレジスト膜の硬度は、ヌープ硬度計(明石工業(株)製、MKV-G2)を用いて測定した。荷重範囲は、0.5~20gfであった。屈折率はエリプソメーター(ガートナー社製)を用いて、He-Neレーザー(波長632.8nm)の屈折率を測定した。

レジストパターンイメージ
レジストパターンイメージ
レジストパターンの高さマップ
レジストパターンの高さマップ

上の左図(a)と3(b)には、各荷重におけるフォトレジストパターンのAFM像を示している。上の左図(a)のように、0.01nNの低荷重を掛けた場合はフォトレジストパターン配列が確認できる。図において、探針は左から右へ走査しながらパターン像を測定している。しかし、この時のパターン像は、AFMの微細探針の先端形状(ピラミダル)が反映されて歪んだものになっている。そこで、理想的な直方体パターンにピラミダル形状の探針が接触した場合のパターンプロファイルを数値解析により求めた。上の右図は、高さ1.0μmで0.6μm角の直方体パターンについて得られるプロファイルを示している。等高線の間隔は、0.12μmである。このように、直方体でのパターンプロファイルは、上の左図(a)のパターン像をほぼ反映していることが分かる。一方、上の左図(b)の7.04nNの荷重を掛けた場合では、中央のフォトレジストパターンが探針走査の途中で剥離倒壊したことによって、観察像が乱れていることが分かる。また、この時よりもわずかに低い荷重である6.91nNの場合では、フォトレジストパターンが倒壊せずに残っていることを確認している。よって、フォトレジストパターンの倒壊時の荷重は7.04nNであることが分かる。また、本手法を用いた場合の倒壊時の荷重の測定分解能は、約0.1nNであることも分かる。これは非常に高い分解能であるといえる。下の左図には、倒壊によって基板から剥離したフォトレジストパターンのSEM像を示している。個々のパターンが倒壊していることが明確に分かる。また、ほとんどのパターンは元の形状を維持しており、凝集破壊は生じていないことが分かる。次ぎに、フォトレジストパターンの倒壊直前のパターン歪みSを測定する。下の右図は、各荷重におけるフォトレジストパターンのAFM像の断面プロファイルを示している。また、上の右図の直方体パターンの(a-a’)ラインにおける断面プロファイルも図中に示している。0.01nNの低荷重を加えた場合には、フォトレジストパターンの歪みは殆ど見られていない。しかし、微細探針から7.04nNの荷重を掛けることにより、パターンプロファイルは走査方向に大きく傾きパターン歪みが生じているのが分かる。この時のパターン歪みSは、0.625μmであると見積もることが出来る。一方、7.04nNよりも低い荷重では、荷重を取り去った後のパターン像に変形および位置ずれが全く見られないことから、これらのパターン変形は弾性領域で生じたと考えられる。

倒壊剥離後のレジストパターンのSEM写真(4万倍)
図5 倒壊剥離後のレジストパターンの
SEM写真(4万倍)
パターン剥離時のプロファイル変化
パターン剥離時のプロファイル変化

下図には、パターン倒壊に要した荷重の熱処理温度依存性を示している。熱処理温度の増加に従い倒壊に要する荷重も増加することから、フォトレジストパターンと基板との接着力が増大していることが分かる。これは、マクロなサイズでの評価法である引っ張り破壊試験の結果とも対応している。

レジストの熱処理温度と剥離荷重
図7 レジストの熱処理温度と剥離荷重

下図(a)と(b)には、有限要素法により計算したフォトレジストパターン断面における内部応力分布と変形解析結果をそれぞれ示している。下図(a)の内部応力分布において、基板との界面付近で引っ張り応力(A点)および圧縮応力(B点)が集中していることが分かる。また、パターンの内部よりは表面に近いほど応力が大きくなる事が分かる。パターン倒壊は、この内部応力分布に従って生じると考えられる。一方、下図(b)のパターン変形図において、基板との界面よりも僅かに上部のC及びD点において、パターンの伸びおよび収縮が最も顕著になることが分かる。ここで、CおよびD点での破壊限界がレジストパターンと基板間の接着力より低い場合には、パターン倒壊時にフォトレジストパターンの凝集破壊がこれらの点で生じ、基板上に残さが形成されると考えられる。また、逆に、破壊限界が高い場合はパターン倒壊が界面破壊によって生じると考えられるため、残さは生じない。本実験においては、図5のパターン倒壊後のSEM写真において、基板表面に顕著な残さが認められない。よって、フォトレジストパターンの凝集性が高く、パターン倒壊は界面破壊で生じたと考えられる。この傾向は、熱処理の全温度範囲において確認している。

レジストパターン内に発生する応力分布
レジストパターン内に発生する応力分布

下図は、上図(a)に示されたA点およびB点における内部応力とフォトレジストパターンのヤング率の熱処理温度依存性を示している。図より、熱処理温度の増大とともに最大応力が大きくなることが分かる。この内部応力の増大は、熱処理によるフォトレジスト材料の硬化などが顕著に反映したものと考えられる。

レジストパターン底部での応力集中
レジストパターン底部での応力集中

下の左図には、フォトレジスト材料の熱重量(TG)の測定結果を示している。溶剤の沸点である156℃まではレジスト膜内の残留溶剤量は急激に減少するが、200℃以上では残留溶剤の蒸発がほぼ完了することが分かる。また、下の右図にはフォトレジスト膜のヌープ硬度と屈折率の熱処理温度依存性をそれぞれ示している。フォトレジスト膜のヌープ硬度および屈折率も200℃以上で大幅に増加しており、熱処理によってフォトレジスト材料の熱硬化が生じているのが分かる。以上の結果より、熱処理温度の増加に伴いフォトレジスト材料の硬化反応が進み、フォトレジストパターンの凝集力が増したことが分かる。この点からも、図7のフォトレジストパターンの接着特性が界面破壊であることを説明できる。一方、上図にあるように、フォトレジストパターンのヤング率も内部応力と同様な熱処理温度依存性を示している。フォトレジストパターンのヤング率は1MPa前後の値となったが、これは弾性ゴムのヤング率(1.5~5.0MPa)に相当する低い値である。この理由として、フォトレジストパターンへの現像液およびリンス溶液の浸透、およびそれに伴うレジスト樹脂の膨潤などが考えられる。特にTMAHなどのアルカリ水溶液は、フォトレジスト膜中に容易に浸透し、膜応力等の物性値を容易に変化させる事が分かっている。

レジスト材料のTG曲線
レジスト材料のTG曲線
レジストパターンのヌープ硬度
レジストパターンのヌープ硬度

これまでにも微細凝集体の凝集特性に関する研究は数多くなされている。Johansson及びWillsonらは、Siの微細カンチレバーを作製して押込み変形法でヤング率を測定した。そして、Siの微細カンチレバーの破壊限界は、材料の結晶性とサイズに大きく依存していることを示した。また、Matthewsonらは、平坦面への微小球の押込み方法により、無機固体表面の微小領域の弾性特性を解析している。このように、微細凝集体の凝集特性の研究は、無機および金属材料を中心に行われてきたといえる。しかし、本研究のように凝集性の低い高分子材料の微細構造体の研究には、AFMなどの精密な制御機能が必要になってくる。また、AFMを用いた本技術の測定精度は、ピエゾステージの移動精度およびカンチレバーの撓み量の検出精度によって主に支配される。図7にもあるように、測定値のばらつきはある程度認められるが、接着現象の基本的解析には十分であると考えられる。また、本手法の課題としては、微細探針とフォトレジストパターン表面との間に生じる摩擦力や実効接触面積の定量化、および帯電、吸着水の影響の除去などがある。著者らは既にフォトレジスト膜表面の摩擦力の熱処理温度依存性を示しており、微細探針の走査速度およびフォトレジストの熱処理温度の違いによって影響を受けることを確認している。また、微細探針とフォトレジスト膜との接触による接触面積も熱処理温度によって変化することが分かっている。特に、フォトレジスト膜の表面は軟化温度である150℃付近で軟らかくなり、微細探針が膜表面へ押込まれる可能性がある。一方、本手法によれば、溶液中での微細パターンの接着挙動解析も可能であり、接着界面における溶液の浸透力解析などに有効であると考えられる。また、本手法は、微粒子の付着凝集解析およびマイクロマシンなどの微細デバイスの構造強度解析など、今後多くの分野へ適用できるものと考えられる。

原子間力顕微鏡(AFM)を用いた微細探針走査法により、サブミクロンサイズのレジストパターンの接着および凝集性を解析した。実験では、フォトレジストパターンの熱処理温度を変えながらパターン倒壊に要する荷重を測定し、破壊挙動を解析した。本研究により、以下の事が明確になった。

(1)フォトレジストパターンの倒壊は、約0.1nNの荷重分解能で解析できる。
(2)フォトレジストパターンの接着不良は、基板との界面破壊によって主に生じる。
(3)有限要素法との組み合わせで、フォトレジストパターンのヤング率や内部応力分布などを直接解析できる。

本手法は今後の微細デバイスや微細凝集体の接着および凝集挙動解析に有効である。

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