20世紀後半の半導体LSI産業の急速な発展において、フォトレジスト技術は、技術革新を牽引する役割を担うことで飛躍的な進歩を遂げてきた。また、フォトレジスト材料を主としたリソグラフィー技術は、デバイス製造プロセスの最初の工程にあり、常にデバイス設計基準の厳しい要求に応えてきた。また、近年のMEMS(Micro Electronic Mechanical Systems)やIoT(Internet of Things)分野に向けた個別半導体実装の需要が増える見込みであることから、フォトレジスト材料の品質向上やプロセスの最適化がさらなる課題となっている。実用的な微細なレジストパターン形成は、レジスト材料、露光、プロセス、装置など多くの技術分野の集積によって構築されており、引き続くエッチング工程も考慮すると、これらのバランス的な運用が必須である。さらには、この分野に携わる技術者は、高分子化学に始まり、精密制御、光学、界面化学など広範囲な技術の習得が求められる。よって、厳しいデバイス製品規格をクリアできる量産技術に完成させるには、これらの個別技術の基礎およびノウハウの習得が必須となる。
しかしながら、近年、電子産業を担ってきた貴重な人材の多くがリタイアの年代を迎え、フォトレジスト技術の継承が危ぶまれている。最近では、80~90年代に完成された技術を、最新の学会等で報告するケースも少なからず見られる。長年構築されてきた多くの基盤技術が、若い世代に十分に継承されずに埋没の危機に直面している。よって、フォトレジストに関する基盤技術やノウハウを集約した機能的な書籍への要求が必然的に高まっている。
このような背景から、本書では、フォトレジスト技術に関する幅広い分野をカバーし、実用書としても有意義な内容を構成している。具体的には、フォトレジスト材料、プロセス、評価・解析、処理装置までを幅広く網羅し、パターン欠陥などの歩留まり改善やトラブル対策に必須な技術も含まれており、フォトレジスト材料を扱う技術者の一助となるように構成されている。
第1章 レジスト材料
1.1 高分子集合体
1.1.1 はじめに
1.1.2 表面エネルギーとサイズ効果
1.1.3 レジスト膜表面ミクロ構造
1.1.4 集合体の凝集モデル
1.1.5 分散凝集解析
1.1.6 サイズ依存性
1.1.7 マニピュレーション
1.1.8 ナノ空孔
1.2 付着現象
1.2.1 はじめに
1.2.2 感光性樹脂
1.2.3 水溶液中での付着解析
1.2.4 水溶液中でのレジスト膜付着性
1.2.5 膨潤と溶解
1.2.6 大気中での付着解析
1.2.7 大気中でのレジスト膜付着性
1.2.8 レジスト膜の凝集性
1.2.9 表面処理と付着性
1.3 レジスト膜乾燥におけるトラブル
1.3.1 はじめに
1.3.2 クラック
1.3.3 ポッピング
1.3.4 表面硬化層
1.3.5 環境応力亀裂(クレイズ)
1.4 浸透と膨潤
1.4.1 はじめに
1.4.2 膜応力変動
1.4.3 残留溶媒量と付着性
1.4.4 浸透と電気伝導
1.4.5 膨潤と屈折率変動
第2章 レジストプロセス
2.1 レジストプロセス
2.1.1 はじめに
2.1.2 リソグラフィープロセス
2.1.3 各種レジストプロセス
2.1.4 感度曲線とコントラスト
2.1.5 スピンコート特性
2.2 密着強化処理(シランカップリング処理)
2.2.1 はじめに
2.2.2 疎水化処理
2.2.3 最適化プロセス
2.2.4 処理装置
2.2.5 密着性と付着性制御
2.3 多層レジストプロセス
2.3.1 はじめに
2.3.2 プロセスフロー
2.3.3 3層レジストプロセス
2.3.4 Si含有2層レジストプロセス
2.3.5 DFR積層レジストプロセス
2.4 ウェットプロセス
2.4.1 はじめに
2.4.2 接触角(Youngの式とDupreの式)
2.4.3 液滴ピンニング
2.4.4 粗い表面の濡れ性(Wenzelの式)
2.4.5 異種材質表面の濡れ性(Cassieの式)
2.4.6 濡れ性の変化(Newmanの式)
2.4.7 ナノ液滴
2.5 乾燥プロセス
2.5.1 はじめに
2.5.2 レジスト膜の形成
2.5.3 レジスト液の混合と溶解
2.5.4 乾燥によるエネルギー変化
2.5.5 溶剤拡散モデル
2.5.6 ラプラス力とレジスト膜の凝集
2.5.7 熱処理による膜硬化
2.5.8 パターン間メニスカス
2.6 乾燥方式
2.6.1 はじめに
2.6.2 乾燥装置
2.6.3 赤外線乾燥
2.6.4 減圧(真空)乾燥
2.6.5 凍結乾燥
2.6.6 超臨界乾燥
2.6.7 スピン乾燥
第3章 ナノスケール計測技術
3.1 寸法計測
3.1.1 はじめに
3.1.2 AFMによる寸法測定
3.1.3 高分子集合体の凝集制御
3.1.4 LER(line edge roughness)
3.2 DPAT法(付着力測定法)
3.2.1 はじめに
3.2.2 DPAT法
3.2.3 熱処理温度依存性
3.2.4 サイズ依存性
3.2.5 パターン形状と剥離性
3.2.6 溶液中の付着性
3.2.7 ヤング率測定
3.3 耐久性評価
3.3.1 はじめに
3.3.2 加速試験
3.3.3 ワイブル分布
第4章 レジスト付着性
4.1 付着現象
4.1.1 はじめに
4.1.2 付着要因
4.1.3 実効付着面積
4.1.4 表面エネルギー成分
4.1.5 分散・極性成分測定
4.1.6 液体の拡張(拡張係数S)
4.1.7 3成分解析
4.2 応力集中効果
4.2.1 はじめに
4.2.2 アンダーカット
4.2.3 応力分布解析
4.2.4 凹凸パターン
4.2.5 開口パターン
4.2.6 ラインパターン
4.2.7 表面硬化層
4.3 付着力推定
4.3.1 はじめに
4.3.2 原子間力顕微鏡(AFM)
4.3.3 フォースカーブ
4.3.4 吸着力と表面自由エネルギー
4.3.5 相互作用解析
4.3.6 付着強度の推定
第5章 レジスト欠陥
5.1 プロセス欠陥
5.1.1 はじめに
5.1.2 表面硬化層
5.1.3 濡れ欠陥(ピンホール)
5.1.4 ポッピング現象
5.1.5 乾燥むら
5.1.6 液滴ポッピング
5.2 VF(viscous finger)変形
5.2.1 はじめに
5.2.2 ギャップ間のVF変形
5.2.3 VF変形とレジスト接着性
5.2.4 VF変形と応力集中
5.3 ウォータマーク(乾燥痕)
5.3.1 はじめに
5.3.2 形成メカニズム
5.4 発泡(ふくれ)
5.4.1 はじめに
5.4.2 ポッピング
5.4.3 感光剤濃度依存性
5.5 微小気泡
5.5.1 はじめに
5.5.2 気泡捕獲パターン
5.5.3 捕獲と脱離
5.5.4 AFMによるナノ気泡制御
5.5.5 マイクロバブルメモリ
参考文献
付録 コーティング技術に関するQ&A