コーティングとは、基材および基板表面を塗膜で覆うことで、自由度の高い機能的な作用を付与する技術として定義できる。また、塗膜と基板との界面といった不安定要素を含みながらも、各種要因のバランスを保つことで安定化させている。近年、コーティング技術は幅広い産業および製品に関わっており、主要な製造技術として位置づけられている。それに伴い、塗膜およびコーティングの高機能化と高品位化が加速され、細部にわたるプロセス制御が求められている。コーティングは、塗液を液膜へと拡張し、溶剤を乾燥し固着させるプロセスとも定義されるが、材料科学では大きいエネルギー変化を伴う現象として理解できる。本書では、コーティングおよび乾燥現象をエネルギーバランスの観点から考察し、その解決策を検討している。よって、プロセスの高精度化には、熱力学や流れ解析、および応力解析などの基礎技術の適用が不可欠である。また、これらは、トラブル対策においても有効なアプローチとなる。
本書では、濡れの基礎理論から始まり、表面処理、乾燥、加工技術、デバイス応用技術、膜質評価などのコーティングに関する内容について広範囲に述べている。近年、ウェットおよび乾燥プロセスは、処理能力の高さ、低コスト性などの観点から、主要な製造技術として用いられてきた。特に、コーティング技術においても、ウェット乾燥処理の重要性は高く位置づけられている。本書は5章から構成されている。第1章では、コーティングの基礎となる濡れ性や表面処理について、表面エネルギーの観点から論じている。重要な理論式も分かりやすく説明している。第2章では、具体的なコーティング特性および乾燥プロセスについて述べている。また、各種乾燥装置の原理と構造について述べている。第3章では、塗膜および微細パターンの付着要因について述べており、定量化のための解析手法を述べている。第4章は、半導体デバイスやMEMSなどのコーティングの応用技術や、CVDや微粒子制御などの要素技術について実例を含めて述べている。第5章は、塗膜の耐久性などを解析する上で必要な信頼性評価技術について述べている。付録にはQ&Aを設けて、トラブル対応について記載している。
本書内に掲載した実験データ等の多くは著者が取得した内容であり、測定手法およびノウハウも含めて記載している。よって、詳細な実験データや方法を記載し、読者が再実験も可能な内容とした。また、塗布・乾燥ムラ、ウォータマーク、剥離、クラック、ピンホール、膨潤などの各種トラブルの解析手法や事例を多く盛り込んでいる。そのため、高品位な塗膜を得るための主要因を明確にするとともに、その本質の理解を目的としている。本書により、実務上におけるコーティング技術の基礎が深まれば幸いである。
第1章 コーティングの基礎
1. 濡れ
1.1 はじめに
1.2 微細化による液滴の表面エネルギー変化
1.3 Wettingの基礎理論
1.3.1 接触角のバランス
1.3.2 粗い表面の濡れ性
1.3.3 異種材質の濡れ性
1.3.4 接触角の時間変化
1.4 おわりに
2. 表面エネルギー
2.1 はじめに
2.2 分子間相互作用
2.3 Young-Dupreの式
2.4 液滴の自発的拡張
2.5 液中での塗膜、微粒子、気泡の付着現象
2.6 表面処理と界面現象
2.7 おわりに
3. 疎水化処理
3.1 はじめに
3.2 ヘキサメチルジシラザン
3.3 疎水化プロセスの最適条件
3.4 疎水化装置の設計と最適化
3.5 疎水化によるシーリング性向上
3.6 疎水化による高分子膜の付着力減少
3.7 おわりに
4. 濡れトラブルの原因・対策
4.1 はじめに
4.2 ポッピング
4.3 ピンニング
4.4 ピンホール
4.5 粘性指状(VF)変形
4.6 おわりに
第2章 塗膜乾燥
1. 塗膜の乾燥メカニズムと制御
1.1 はじめに
1.2 コーティング要因
1.3 塗工液の性質
1.4 乾燥曲線
1.5 Fickの拡散則
1.6 凝集過程
1.7 硬化過程
1.8 おわりに
2. 塗膜の熱処理による膜質制御
2.1 はじめに
2.2 塗膜の性質
2.3 水溶液中の付着評価
2.4 水溶液中の付着
2.5 膨潤と溶解
2.6 大気中の付着評価
2.7 大気中の付着
2.8 凝集力
2.9 高分子膜の表面ミクロ構造
3. 塗膜の応力
3.1 はじめに
3.2 ウェットエッチング評価
3.3 応力分布解析
3.4 塗膜パターン剥離と応力集中
3.4.1 角形状と剥離
3.4.2 ウィンドウ形状と剥離
3.4.3 ライン形状と剥離
3.4.4 表面硬化層と剥離
3.5 おわりに
4. 乾燥装置
4.1 はじめに
4.2 乾燥装置
4.2.1 ヒーター加熱(乾燥炉)
4.2.2 赤外線加熱(ランプ加熱)
4.2.3 減圧(真空)乾燥(沸点降下)
4.2.4 凍結乾燥(三重点)
4.2.5 超臨界乾燥(臨界点)
4.2.6 スピン乾燥(膜厚分布)
4.3 おわりに
5. 乾燥欠陥
5.1 はじめに
5.2 クラック(ひび割れ)
5.3 ポッピング(局所剥離)
5.4 表面硬化層
5.5 環境応力亀裂(クレイズ)
5.6 ウォータマーク(乾燥痕)
5.7 乾燥ムラ
5.8 パターン間メニスカス
5.9 ボイド
5.10 おわりに
第3章 接着のメカニズムと界面
1. 接着
1.1 はじめに
1.2 付着要因
1.3 界面構造
1.4 付着界面の相互作用
1.4.1 原子間力顕微鏡(AFM)
1.4.2 分子間相互作用
1.4.3 吸着力と表面自由エネルギー
1.4.4 相互作用解析
1.4.5 付着強度の推定
1.5 おわりに
2. 高分子集合体
3. 浸透と応力変動
3.1 塗膜の付着不良
3.2 真空処理内での残留溶媒量と密着性
3.3 TMAH現像液に浸漬後の抵抗値
4. 多層界面構造
4.1 はじめに
4.2 溶剤蒸発に伴う塗膜の粘性指状変形と接着性
4.3 Cu/高分子膜/Cu/Al系の多層構造の接着
4.4 付着性における基板表面の自然酸化膜の影響
5. ナノ空孔(Vacancy)
6. 相互作用引力
第4章 ナノテクノロジーとコーティング
1. マイクロエレクトロニクスと付着性
1.1 はじめに
1.2 微細加工
1.3 高分子パターンの付着要因
1.4 高分子パターンの付着特性
1.4.1 AFMによる直接剥離(DPAT法)
1.4.2 熱処理温度
1.4.3 パターンサイズ
1.4.4 溶液中の付着性
1.4.5 パターン形状と剥離性
1.5 おわりに
2. プラズマCVD
2.1 はじめに
2.2 処理装置
2.3 周期パターン作成
2.4 プラズマ重合膜
2.5 平坦性評価
2.6 核生成
2.7 おわりに
3. MEMSにおける薄膜技術
3.1 はじめに
3.2 マイクロダイヤフラム
3.3 流体制御
3.4 おわりに
4. ナノ粒子・ナノ気泡・ナノ液滴の解析技術
4.1 はじめに
4.2 微粒子の性質
4.2.1 分散凝集解析
4.2.2 付着力
4.3 微小気泡の性質と制御技術
4.3.1 はじめに
4.3.2 気泡捕獲パターン
4.3.3 気泡の捕獲と脱離
4.3.4 パターン内気泡
4.3.5 ナノ気泡
4.3.6 ナノ気泡の剥離力
4.3.7 マイクロバブルメモリ
4.4 ナノ液滴
4.5 おわりに
第5章 解析技術
1. 信頼性解析技術
1.1 はじめに
1.2 膜およびフィルムの故障モード
1.3 故障劣化の活性化エネルギー
1.4 バスタブ曲線
1.5 故障分布
1.6 加速試験と寿命予測
1.7 ヤング率
1.8 屈折率
1.9 おわりに
付録 コーティング技術に関するQ&A
索引